私たちは両親からDNAを受け継ぎますが、そのうち約0.1%の配列に個人差があり、様々な多様性を生み出しています。 体の大きさや運動神経だけではなく、様々な病気のなりやすさ・なりにくさも、その多様性の一つです。 我々は、このDNA配列の多様性と病気のなりやすさ・なりにくさの関係を解きほぐすことで、病気についてより深く学ぶことができ、 病気のリスクを推定したり、そのメカニズムを解明して治療や予防に繋げることができると考えています。 そのために、数万人規模の解析を可能にする実験技術を開発するとともに、 ヒトだけではなく、DNAと病気の関係がよく似ているイヌやネコなどへも対象を広げるなど、 様々なバックグランドを持つメンバーが協力して研究を進めています。
我々の研究室における重要なキーワードが”レアバリアント”です。 頻度が低いゲノム配列の個体差という意味ですが、その中には遺伝子の機能を大きく変えて疾患発症に大きな影響を及ぼすものがあります。 そのため、ゲノム情報を使ったオーダーメイド医療では重要なバリアントとなります。 しかし、このバリアントの解析のためには、実際にその個体のDNAをシークエンス解析が必要があり、 確信を持った成果を得るには非常にたくさんの人数を解析する必要があります。 そこで我々は、数万人規模で効率よく解析する実験技術を開発し、 バイオバンク・ジャパンをはじめ多くのバイオバンクやコホートが収集したサンプルをご提供いただき、 40万人以上について解析を行ってきています。
詳しくはこちら: レアバリアントの解析について
がんは様々な要因で発症しますが、ゲノム配列のたった一か所の 塩基の違いが原因となるがんは遺伝性腫瘍といいます。 2013年に女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが予防的に乳房を切除されたことで有名となりました。 その原因としてBRCA1・BRCA2遺伝子はよく知られていますが、 現在ではこれらに対応した薬が開発されるとともに、 日本でも保険医療の対象となり、その適用範囲が拡大しています。 我々の研究室では、これまで23がん種について10万人以上を対象に DNA解析をするとともに国際コンソーシアムにも参加し、我々が公開した 日本人のデータの一部は診療ガイドラインに掲載いただいています。 さらに、BRCA1・BRCA2の両遺伝子は日本人に多い 胃がん・食道がん・胆道がんの発症リスクも高めることを明らかにしたり、 胃がんではピロリ菌の感染があるとそのリスクが大きく上昇する一方で、 感染がなければほとんど上昇しないことも示しました。 このように、よりその人に適したオーダーメイド医療に繋がるような研究を行っています。
詳しくはこちら: 遺伝性腫瘍の研究について
がんとともに、日本において大きな社会問題である認知症ですが、 遺伝が関与する割合が7割くらいと、他の病気より大きいことが知られています。 また、認知症の薬を新しく開発することはとても困難であることも有名です。 この両方の問題に貢献するために、認知症に対してもレアバリアントに着目した解析を行っており、 認知症においても遺伝性腫瘍と同様に、ゲノム情報を適切な形で使ったオーダーメイド医療が行われる時が来ると思います。 また、ゲノム解析の研究成果を元に、認知症の発症や逆に発症しにくい未知のメカニズムを解明するために、 iPS細胞に疾患発症に関わる遺伝的バリアントを導入したり、 そういった特徴を持つ方からiPS細胞を作製させていただく研究にも展開しています。
詳しくはこちら: 認知症の研究について
イヌやネコなどの伴侶動物は、人間が重要と思う特徴を持つ個体同士を掛け合わせ、 近親交配を行って品種を作成し維持してきております。 イヌでは、体重が数kgのチワワなどから100kgを超える犬種も知られ、 数十倍とヒトでは考えられないような非常に大きな差が生まれました。 その結果、品種特異的に特定の病気になりやすくなってしまっていることがよく知られています。 一方で、これらの動物は、実験動物としてよく知られるマウスやラットに比べてよりヒトに近く、 多くの病気だけではなく行動や認知機能についてもとても良く似ており、よりよいモデルとなる可能性があります。 そのため、イヌやネコの品種特異的な病気を減らすとともに、ヒトの疾患モデルとして研究を行うことが重要です。 しかし、街でよく見かけるイヌやネコを研究対象にすることは、多くの飼い主さんや獣医さんの協力を得る必要があり難しいですが、 我々の研究室には4人の獣医師免許を持った研究者がいることを活かし、東京大学の動物医療センターなどと共同で、 医療・獣医療の両方のためになるようなユニークな研究を行っています。
詳しくはこちら: イヌ・ネコゲノムでの研究について