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広域TEM像自動取得システムの概要
 2000年代初頭からスロースキャンCCDカメラを標準装備したデジタルTEMが登場し,さらに試料X-Yステージの移動が手動式回転ノブからトラックボールまたはジョイスティックによる電動ステージ方式に替わった.アナログ制御が一部あったTEM本体が,全てデジタル制御可能になったことで,TEM像を自動撮影する環境が整ったと言える.我々が使用している透過電顕(日本電子 JEM-1400)は,モーター制御電動X-Yステージを備え,電子ビームを偏向コイルでコントロールすることで最大縦5枚×横5枚, 計25枚を撮影し,像を結合するオートモンタージュ撮影機能を標準装備する.しかし,電子線を偏向コイルにより曲げて撮影するオートモンタージュ機能では,限られた領域しか撮影できないため,より広い領域を撮影する場合はステージを移動させる必要がある.試料ステージの自動制御によりオートモンタージュ撮影が可能な他メーカーのTEMも存在するが,OSやソフトウェア上の問題から、撮影上限が数十枚に制限されている.そこで電子顕微鏡を専門とする研究者と画像情報解析を専門とする研究者,そして,顕微鏡企業の協力により 「広域TEM像自動取得システム」の開発を行った.
 広域TEM像自動取得システムは,プログラムで制御する二つのシステム,(1) 広域TEM像自動撮影システムと,(2) 広域TEM像タイリングプログラムで構成されている(図1).(1)は,TEM本体を外部制御コンピューターによりスクリプト制御し,データ保存先が許す限りの連続写真を「自動撮影」するシステムである(図1と2).(2)は,撮影したこれら大量の連続画像の位置情報とのりしろ部分の画像情報を用いて「自動結合」し,連結した1枚の写真を生成するプログラムである(図1と3).
豊岡公徳,佐藤繭子,朽名夏麿,永田典子「高圧凍結技法を取り入れた広域透過電顕像自動取得システムの開発とその応用」
Plant Morphology 26: 3-8
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 広域TEM像撮影システムにより,通常では撮影できないギガピクセルクラスのTEM像を得られるようなった.しかし,取得した広域TEM像のファイルサイズは数GB〜数十GBと非常に大きいため,Photoshopなど特殊アプリケーションでなければ観ることができない.そこで我々は,広域TEM像をウェブブラウザ上で容易に閲覧/検索することができる「電顕アトラス」の構築を進めている.今後,タブレット型デバイスやスマートフォンがさらに普及し,高校や大学などの教育現場で導入されていくと予想される.誰でも簡単にアクセスできるインターフェイスで,OSやブラウザーに依存しない顕微鏡像のデータベースを作成し,そこでオルガネラに印を付けた細胞小器官から組織レベルまでの広域TEM像を電子地図のようにシームレスに標示できれば,オミックス情報や他のデータベースと統合できるようになるとともに,TEMを扱ったことのない研究者や学生でも容易にTEM像の閲覧が可能となると期待される.

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