横浜市立大学のNMR(核磁気共鳴)棟では、7台あるNMR装置すべてを公開。ポスター展示とスタッフによる解説がつく予定です。当日案内するのはNMRを利用して研究を行っている3つの研究室のメンバーたち。ふだんは見られないNMR装置を一般公開する意義と見どころについて、企画を担当する平尾さん、下條さんに聞きました。
今回の公開の目玉は、新しく導入された950メガヘルツのNMR装置だそうですね。
はい、NMR棟のすべての装置を見学していただけますが、特に今年の3月に導入されたばかりの950メガヘルツのNMR装置は、世界でもまだ10台程度しかなく、日本には大阪大学とここの2カ所にしかありません。また液体クロマトグラフィーを付けられるNMR(LC-NMR)装置としては横浜市大の装置が世界最大です。
NMR装置は巨大な磁石で、強い磁場が生じるほど精密な解析が可能になります。これを超えるものとしては、世界に1台1ギガ(1000メガ)ヘルツの装置がありますが、磁場が漏れるためにLC-NMRとしては使用できません。一般の方々の目に触れる機会は少ないので、ぜひ皆さんに見ていただき、認知度を高めたいです。
当日は、日頃これらのNMR装置を研究に使用している研究室のメンバーがご案内と解説を担当します。NMR棟がちょっと奥まったところにあるせいか、一般公開の時に訪れるのはほとんどが大人なので、じっくり質問しながら楽しんでいただければと思います。今回はNMRに関連する講演会やセミナーも開催されますので、そちらと合わせて見学されると、さらに理解が深まって面白いのではないでしょうか。
NMR装置はどんな研究に利用されているのでしょうか。また、その成果はどのように社会に還元されますか?
サンプルは細長い試料管に入れて測定される
NMRを使って生体内のタンパク質の立体構造を調べたり、他の分子との相互作用を解析します。タンパク質の構造については、X線や電子顕微鏡を使って解析し研究しているグループもありますが、それぞれの方法には一長一短があり、研究したいタンパク質の特性に合う装置を使います。NMRは分子量が巨大なタンパク質を見るのには向いていないのですが、構造が安定せず“ゆらゆら”しているタンパク質の構造解析ができるのが特徴です。
なぜ生体内のタンパク質の構造を知るのが重要かというと、そこにいろいろな分子が作用して病気を引き起こすからです。病気の原因となっているタンパク質を特定しその構造がわかれば、今度はそこにうまく作用して病気を治す治療薬を創り出すことができます。横浜市立大学は大阪大学や理研とともに、NMRを広く一般企業やほかの研究所にも活用してもらう「NMR共用プラットホーム」事業に参加しています。製薬会社が創薬研究を行うためにNMRを利用し、私たちは共同研究の中でタンパク質の構造解析の部分を担うことが多いです。
一般来場者にとっての見どころを教えてください。TVドラマのロケにも使われたそうですね。
宇宙船のような900メガヘルツのNMR装置
900メガヘルツのNMR装置はまるで宇宙船のような形をしており、TVドラマ「ガリレオ」のロケにも使われました。ドラマでは架空の「脳波測定器」として登場します。最新鋭の装置のようなシールドが施されていないので扉の内側に金属類は持ち込めないので、撮影はたいへんだったようです。磁場の影響を受けないように木で作られたドームも形が面白く、一見の価値ありです。何しろ巨大な磁石なので、うっかり近づくと磁気カードやスマホのデータが飛んでしまいますから、見学はガラス扉の外からのみ可です。
ちなみにNMRを使って最初にタンパク質の構造解析を行ったのはスイスのクルト・ヴュートリッヒで、2002年にノーベル化学賞を受賞しています。そのころの装置は200~400メガヘルツとはるかに磁場が小さいものでした。20年くらいの間にここまで進化したNMR装置の歴史にも、見学しながら思いを馳せていただければと思います。
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