講演会

講演5

試験管内で精子を作る

小川毅彦
講師名
小川毅彦(横浜市立大学 医学研究科)
会場
交流棟1階 交流棟ホール
時間
13:40-14:20

動物の雄は、そしてヒト男性も、膨大な数の精子を毎日産生している。そこにはどんな仕組みがあるのだろうか。

精子の元になる細胞、すなわち精子幹細胞から精子が作られる過程は精子形成と呼ばれるが、その仕組みは複雑で、精密に規定されていることが知られている。それは長期間に及び、実際、精子幹細胞が精子になるまでに、マウスの場合は、35日間、ヒトの場合は64日間を要する。丸い細胞が鞭毛をもつ尖った形の精子になることも不思議な現象である。この複雑かつ不思議な現象を培養皿の中で再現したいという試みの歴史は約1世紀前にまでさかのぼる。しかし、これまで様々な研究がなされてきたにもかかわらず、培養皿のなかで精子を産生することは不可能であった。

私たちは、培養法のなかでも古典的な器官培養法を用いて、マウス精巣組織を培養することにより、精子幹細胞から精子を産生することに世界で初めて成功した。産生された精子をもちいて産仔にも成功した。さらに精巣組織を凍結して保存できることもわかった。

今後この方法をもちいて、精子形成のメカニズムが解明され、男性不妊症の診断・治療に貢献できるものと期待される。

培養皿内で作られた精子(クリックで拡大)

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講演6

私たちの未来を予測する
-スーパーコンピュータ「京」-

渡邊貞
講師名
渡邊貞(理化学研究所 計算科学研究機構)
会場
交流棟1階 交流棟ホール
時間
14:30-15:10
理論・実験と並ぶ第3の科学、計算科学。計算科学を支える基盤技術、それがスーパーコンピュータです。スーパーコンピュータを使った数値実験(数値シミュレーション)により、気候温暖化や宇宙の進化などの非常に長い時間の現象の解析や、衝突・燃焼、化学反応などの非常に短い時間の現象の解析、或いは原子炉の安全性解析や地震動の解析など、実験が不可能な事象の解析を行ったり、未来を予測したりすることが出来ます。このような数値シミュレーションを行うには超高速で計算を実行するスーパーコンピュータが必須の道具となっています。我が国ではスーパーコンピュータの技術は国家基幹技術と定められ、これを受けて2006年度から文部科学省の主導の元に、理研を開発主体として富士通と共同で10ペタフロップス(1秒間に1京回の計算)の計算速度を持つスーパーコンピュータ「京」の開発を進めてきました。この講演ではスーパーコンピュータ「京」の速さを引き出す仕組みやその応用分野についてご紹介します。

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講演7

病気と体質の医学:個別化医療の実現に向けて

久保充明
講師名
久保充明(理化学研究所横浜研究所 ゲノム医科学研究センター)
会場
交流棟1階 交流棟ホール
時間
15:20-16:00

家族はよく似ています。これはゲノムと呼ばれる遺伝情報が親から子へ、子から孫へと伝えられるからです。この遺伝情報は30億の文字からできており、2003年にヒトゲノムの30億文字の並んでいる順番が解明されました。この30億文字を多くの人で比べると、そのほとんどはみんな同じ文字の並びですが、300文字に1文字ぐらいの割合で文字が異なる所があります。

私たちのセンターでは、ヒトゲノム上の文字が異なる場所を、多くの患者さんの協力を得て調べ、病気などとの関係を研究しています。その結果、糖尿病やがんなどの一般的な病気のなりやすさや薬の効果・副作用などに関係する遺伝子がわかるようになってきました。つまり、皆さんが病気のなりやすさや薬の反応性について体質と考えているものが、少しずつではありますが科学的に解明されてきています。

今後、さらに研究が進めば、みなさんの持つ遺伝情報に合わせた病気の治療や予防、すなわち個別化医療(オーダーメイド医療)が可能になると考えています。講演では、私達が取り組んでいる個別化医療の実現に向けた研究についてご紹介したいと思います。

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講演8

放射線・ゲノム・がん
~シーケンス拠点の必要性(セルイノベーションプログラム)~

林﨑良英
講師名
林﨑良英(理化学研究所横浜研究所 オミックス基盤研究領域)
会場
交流棟1階 交流棟ホール
時間
16:10-16:50

放射線が人体に及ぼす効果について私たちはもっと理解を深めるべきだと考えます。福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、放射線の人体への影響が世の中の関心を引きました。シーベルト(Sv)やベクレル(Bq)をはじめとした耳慣れない用語や概念は、マスコミの報道で説明なしに使われています。そのため危険の程度が理解されず、不安をあおる結果となり、風評被害などの望ましくない事態を招いています。

また、事故後には様々な基準値が注目されましたが、“基準値の意味”が十分に説明されておらず、検査結果に一喜一憂したり、基準値の変更に翻弄されたりするような混乱を招く一因となっています。

放射線の外部被ばくや内部被ばくでDNAが傷つくと、急性(早発性)や晩発性の放射線障害が起こります。被ばくで我々の体にどのような生体反応が起きるかを正しく理解することが、各人が放射線から身を守る唯一の手段でしょう。

オミックス基盤研究領域はDNAやRNAの遺伝暗号を解読・解明してきた拠点です。恒久の障害となるDNAのキズや突然変異に関して、これまで遺伝暗号を解いてきた立場から、なるべくやさしく知識の一端をご紹介できればと思います。

DNAを傷つける要因の例(クリックで拡大)

オミックス基盤研究領域のシーケンス拠点 (クリックで拡大)

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